幸せのビット発見?世界の格差是正します
インターネットサービスプロバイダのEditNet(東京・世田谷区)は,独立行政法人テレコム総研(東京・八王子市)との共同研究により,情報の発信者(送り手)の日常生活への満足度などが,その通信の特性にも現れることを突き止め,1日付けの専門誌「テレコムジャパン」に発表した.
研究成果は,昨今の経済危機により深刻な影響を受ける国や地域などを通信の傾向から迅速に特定し,速やかな対策による救済を図ることに大きく役立つと考えられる.本年夏をめどに国連機関での実用化を目指す.
共同研究チームは,2006年度からの2年間にわたり,インターネット利用者から無作為で抽出した被験者100人を募り,使用するルータ(インターネットのパケットの経路を制御する装置)に特殊な解析装置を取り付けた.定期的にアンケート調査を行い,感じている幸福度,生活や家計の状況などの20項目について,5段階で回答してもらい,アンケート結果と,トラヒック量,通信対地の多様性,特定トラヒックの出現間隔などの関係を解析した.
その結果,「幸福度」「自由な表現が保障されていると考える度合い」の2つのパラメータそれぞれについて,IPヘッダの特定の位置にあるビットが立っている割合が顕著に変化することがわかった.これらは「死亡フラグ」「恋愛フラグ」に類似する可能性があるが,現在調査中.
研究チームは,これらのビットを「幸福度ビット」「表現の自由ビット」と名づけ,2008年度の研究において,世界100カ国の関門ルータにおいて同様の解析装置を設置し,各種の文献による各国の状況と照らし合わせ,国民所得や表現の自由の度合いとビットの出現率の相関を調査した.
図1は,1人あたりGDP(横軸)と幸福度ビットの出現頻度(縦軸)の相関図.この図から,経済的豊かさが一定以下であると幸福度が大きく下がる一方,ある程度の水準を超えると幸福度に大きなばらつきが出てくる(相関がなくなってくる)ことがわかる.「経済的な豊かさが幸せを呼ぶとは限らないが,貧困は確実に不幸を呼ぶ」という通説を裏付けるものだ.
日本は,「経済的には豊かであるが,国民の幸福度が高くない」という評価だ.
GNPは日本よりも大幅に少なく,低所得国に分類されながら幸福度が非常に高い国もあり,例えば「国民総幸福度(GNH)」の概念を提唱したブータンなどが特徴的だった.
図2は,国際NGO「国境なき記者団」による報道の自由ランキング(2008年版)の結果(横軸,順位が高い方が右)と,表現の自由ビットの出現頻度(縦軸)の相関図.
この図から,ネット利用者が表現の自由が確保されていると感じる度合いと,その国においてジャーナリストが報道の自由が確保されていると考える度合いは概ね相関があるものの,一部に興味深い数値が見られる.
この中で,日本は「報道の自由に比べ,ネットの表現が抑圧されている」と考えられるグループに分類された.報道の自由は確保されているが,ネット上の表現が抑圧されているということだ.この結果は,「ブログ炎上」などを恐れるために予防線を何重にも張って記事を書かないといけないという意見などと符合する.
一方,報道の自由がまったくないにもかかわらずネットの自由がトップレベルになった国もある.代表的には「報道の自由ランキング」で下から2位だった○○○と,同7位だった○○だが,その理由は大きく異なる.○○○の場合は,そもそもインターネットを利用したりコミケ(日本で行われる最大の同人誌即売会)に参加したりできる人がごくわずかに限られており,彼らはネットの利用についてまったく抑圧を受けていないと考えられる.○○の場合は,国家によるネット利用の統制が相当程度行われているものの,利用者自身でそれを回避する手法を探知し,自由な利用が行われている可能性が高い.
共同研究チームでは,世界の幸福度を高め,自由闊達なネット利用を促進するため,今後これらの解析技術の研究をさらに進めるとのこと.
解説・参考文献
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