エイプリルフール
 (解説)
 少子化,人口減と騒がれる中,東京の人口はしばらく増加するといわれています.確かになんだかんだいっても便利なことは変わりありませんから,東京や大阪などの大都市志向は今後もあまり変わらないかもしれません.
 弊社は,混雑が激しいことで有名な路線(仮に,東急田園都市線としておきます)の沿線にあります.
 この路線,もともとは東急電鉄さん(以下敬称割愛)が40年ほど前に広大なニュータウン(仮に,「東急多摩田園都市」としておきます)を開発し,そのアクセス鉄道として開通させたものでした(*1).
 史料をひもとくと(何しろ私が生まれる前の話なので),開業当初のこの路線は,先のほうに行くと4両編成(昼は2両(!))の電車が田園風景の中を往復していたということです.私が小学生の頃は,さすがに4両編成ということはありませんでしたが,この電車が地上に上がる駅(仮に,「二子玉川駅」としておきます.当時は違う名前でしたが,そこまで詳細に書くと路線や駅が特定されてしまうので,ご勘弁ください.)から少し走ると,畑も結構広がっていました.
 しかし,今は10両編成の電車を2分おきに走らせても,「ノートパソコンが壊れる」とまでいわれる混雑ぶりです.輸送力の増強が,沿線の都市開発に追いつかなかったのです.昨年の流行語で言えば,「想定外だった.by 東急電鉄」といったところでしょうか.
 このことを,「東急は将来の見通しが甘かった.」と批判する人もいます.しかし,4両編成が走っていた40年前に,駅などは10両編成用に整備していたのです.当時,私鉄で10両の設備を持っていたところはほとんどなく,その後各社が大変な思いをして10両や8両対応の工事をしたことを考えると,○急電鉄は「当時としてはできる限り,いや,それ以上のことをした」と言えるのではないでしょうか.少なくとも,当時の判断を今の価値観や結果に当てはめて批判することは酷だということは確かです.

 田園都市線の混雑や遅延について,東急電鉄には苦情が絶えないそうです.巨大システムである鉄道の混雑緩和が1年2年でできるようなものではないですし,東急もできることはやり尽くしている感があるので,正直東急に文句を言っても仕方がありません.これも「何でも苦情になってしまう」という時代の表れなのでしょうか.
 ただ,乗客の各自の配慮,例えば,ドアの近くの人は一旦降りて通路をあける,乗車したらできるだけ奥に詰めるなどの簡単なことで,混雑はともかく遅延はだいぶ減るのではないか?と思います.
 電車に限らず,お互いの配慮によって,物事がうまく進むことはたくさんあります.ごみの出し方,マンションの生活騒音などが代表的な例ですが,こうしたことも,いきなり文句を言ったり不快感をあらわにするよりも,どうしたらマナーや配慮を考えてもらえるか,という立場に立つほうが,結局問題解決を迅速にするかもしれません.江戸時代の都市生活を描く「江戸しぐさ」などは,今を生きる私たちにとって非常に重要なヒントを与えてくれると思います.

 新年度が実質的に明日から始まり,通勤ラッシュも始まります.あまり気持ちのいいものではありませんが,今日くらいは笑い飛ばすのもよいのではないでしょうか.


田園都市線沿線ジョーク集 その1
「今朝田園都市線に乗ったら,時間どおりに動いてたよ.それに,身動きが取れるくらい空いてた.エイプリルフールの冗談かと思った.」
「・・・今日は日曜日よ」

(*1)ただし,弊社の付近を含む区間は,これと異なる経緯で建設されています.

※公開時からだいぶ経ってからの追記
 このエイプリルフールネタは当初「○急○○○○線」などの伏字で書いていたのですが,単行本に収録されたときの編集者のアドバイスで,単行本では「東急田園都市線」と実名にしましょう,ということになり,実際にそのように出版物で公開されることとなりました.
 当初このネタを書いたころ,田園都市線は混雑も激しく,朝は10分や15分の遅れも当たり前という状況でしたが,その後,状況は驚くほど変わりました.
 大井町線の急行運転,グリーンラインの開業などの大工事から,ボトルネックである渋谷駅の駅員の合図の出し方といった細かいことまでの積み重ねで,田園都市線は以前に比べて驚くほど遅れなくなり,混雑も相当緩和されたように思います.
 田園都市線の混雑について非常に大きな改善をもたらした東急電鉄さんへの敬意と,すでに出版物で実名化されていることなどを踏まえ,表記を実名化します.